東京地方裁判所 昭和43年(行ク)41号 決定 1968年8月09日
申立人
学校法人 東海大学
代表者
松前重義
代理人
小島利雄
同
河野密
同
菅井敏男
被申立人
郵政大臣 小林武治
指定代理人
鰍沢健三
ほか四名
代理人
今井文雄
申立人は、昭和四三年七月一五日、当裁判所に対し、郵政大臣の免許拒否処分取消等を求める訴え(昭和四三年(行ワ)第一三一号事件)を提起し、あわせて処分の効力を停止する旨の裁判を求めたので、当裁判所は、被申立人の意見をきいたうえ、次のとおり決定する。
主文
被申立人が申立人に対し昭和四三年六月二九日になした申立人の超短波放送実用化試験局の免許を同月三〇日限り取り消す旨の通告処分の効力を本案判決の確定するまで停止する。
申立人のその余の申立てを却下する。
申立費用は、被申立人の負担とする。
理由
第一 申立人の申立ての趣旨および理由
別紙(一)、(二)、(三)記載のとおりである。
第二 被申立人の意見
別紙(四)、(五)記載のとおりである。
第三 当裁判所の判断
一行政事件訴訟法二五条二項の規定に基づき裁判所が執行停止をするには、本案訴訟(処分の取消しの訴え、無効確認の訴え)が提起され、その訴えが適法であることを要する。
1 ところで、申立人が本案訴訟において取消しを求めているのは、被申立人が申立人に対し昭和四三年六月二九日に申立人の超短波放送実用化試験局(以下単に「試験局」という。)を同年七月一日以降再免許しない旨を電話通告したその通告(以下「本件通告」という。)であることは訴状の記載に徴し明らかである。そこで、まず、本件通告が上記行政事件訴訟の対象となる処分であるかどうかについて検討する。
<疎明資料>によれば、被申立人は、昭和四三年一月八日、申立人の試験局について同年四月一日以降再免許しない旨を一方的に申立人に通告したこと、その後、申立人は、その試験局について被申立人から昭和四三年三月二九日付をもつて再免許を受けたこと、ところが、その再免許の有効期間が同年六月三〇日までであつたので、さらに被申立人に対し同年五月三〇日付で適法に(無線局免許手続規則一七条一項ただし書)同年七月一日から同年九月三〇日までの間を有効期間とする試験局の再免許申請をなしたこと、同年六月二九日に郵政省電波監理局放送業務課長から同年七月一日以降再免許しない旨の電話通告(本件通告)を受けたこと、しかし、申立人は、かかる通告を全く予期していなかつたので、同年七月六日付の書面で被申立人に対し再免許しない理由を付記した文書による応答を要したこと、しかるに、被申立人は、右七月六日付の申立人の要求に文書で応答することなく、同月九日、申立人が同月一日以後も試験局を運用し放送を行つているのは電波法四条に違反するとして申立人を東京地方検察庁に告発したこと、そして、被申立人は、同月一六日にいたり、ようやく申立人の前記再免許申請が電波法七条一項四号の規定に適合しないので再免許しない、との記載ある同日付の文書を申立人に交付したことを認めることができ、他にこれに反する資料はない。
以上の事実関係のもとにおいては、本件通告は、申立人の前記同年五月三〇日付再免許申請に対する応答としてではなく、したがつてそれとは別に、同年六月三〇日限り従来の免許を一方的に打切り、もしくは取消し(撒回)をする旨の確定的意思表示をしたものと認むべく、それゆえ本件通告は上記行政事件訴訟の対象となる処分であると解するを相当とする。けだし、一般に、免許、許可等の処分に期限が、附されている場合において、その期限の到来によつて、当然に免許、許可等が失効すると解するのは妥当ではなく、免許、許可の目的、性質に照しその附された期限が不相応に短期である場合には、かかる期限は免許、許可の条件の存総期限の性質をもち、その期限の到来により、その条件の改訂を考慮する趣旨と解すべきであり、したがつて、期限の到来の前に適法な更新の申請がなされている限り、期限の到来によつて免許許可等が失効しないものと解するを相当とし、後に述べるように、電波法による試験局の免許についてもその例外ではない。そして前示のとおり期限到来後間もなく被申立人は申立人を告発している。したがつて、これらを総合して考えると、本件通告は、前示のとおり、六月三〇日限りで従来の試験局の免許を打切る旨の確定的な意思表示をしたものと解するほかはないからである。
被申立人は、現行電波法において無線局の免許が原則として一定の有効期間を定めて与えられることになつており(電波法一三条一項)、申立人の試験局の免許が有効期間の満了日である昭和四三年六月三〇日の経過とともに効力を失うことになるので、本件通告をもつて同月七月一日以降は再免許を行わない旨を口頭伝達したまでのことで、これによつて当時効力を有していた試験局の免許を取り消したものではないから、本件通告を免許取消しの行政処分であるとしてその取消しを訴求することは許されないと主張する。しかしながら、試験局の免許に附すべき有効期間は原則として一年と定められている(電波法一三条一項本文、同法施行規則七条)が、しかし、試験局の免許の目的が無線設備および無線設備の操作を行なう無線局として無線通信業務を実用に移す目的で試験的に開設するにあること(電波法二条五号、同法施行規則四条一項二三号)、また、その開設についても放送局と同一の開設の根本的基準によるべきものとされ(放送局の開設の根本基準((昭和二五年電波監理委員会規則第二一号、昭和二七年法律第二八〇号附則三項により郵政省令としての効力を有する。))、なお<疎明資料>によれば、上記の放送局の開設の根本的基準の一部を改正する省令案に関する聴聞が行われた第三六回電波監理審議会聴聞において、郵政省電波監理局放送業務課長らは、さらに具体的に、試験局は放送局と全く同一の社会的機能を営むものであるから、その取扱いは放送局と全く同一でなければならず、これを放送局としないで試験局としたのは、当該無線局が実用放送を行うに際し、当該地域において永続的な実用放送が可能であるかどうかについて未決の条件がある場合に、まず試験局として免許し、後日未決の条件が解決したときに放送局に切り替えるための一つの段階として試験局を設けたものである旨説明している)、他の無線局とは異なる性格のものとして取り扱われていること等試験局の免許の目的、性質にかんがみると、前記試験局の免許に附すべき期間は不相応に短期であるというべきであるから、かかる期間は、その満了の時点において免許の条件の存続もしくは改訂を考慮すべきとする趣旨と解すべきであり、したがつて、前示のとおり期間の満了に先立ち適法な再免許の申請(更新の申請の性質をもつことは後に述べる。)がなされている限り、期間の満了によつて直ちに右試験局の免許がその効力を失うと解すべきではない。それゆえ、有効期間の満了日である六月三〇日の経過とともに申立人の試験局の免許が失効することを前提とする被申立人の前記主張は到底採用することができない。
2 ところで、さらに、電波法九六条の二は、「この法律又はこの法律に基づく命令の規定による郵政大臣の処分に不服がある者は、当該処分についての異議申立てに対する決定に対してのみ、取消しの訴えを提起することができる。」と規定し、いわゆる裁決主義を採つているので、本件通告が電波法または同法に基づく命令の規定による処分であるとすれば、これについての異議申立てに対する決定を経ることなく、その取消しの訴えを提起することは許されないと解するを相当とする。そこで、つぎに、本件通告が電波法または同法に基づく命令の規定による処分であるか否かについて検討する。
前記のとおり、電波法一三条一項は、その本文において免許の有効期間について規定し、そのただし書において再免許を妨げない旨を定め、同法一五条は、右の再免許については特にあらたな免許と異なる簡易な申請手続によることができる旨を規定している。そして無線局免許手続規則は、右法律の規定を受けて、その一六条以下において再免許の手続を具体的に規定し、その一七条一項ただし書において、免許の期間が一年以内である無線局については、その期間満了前一か月まで再免許の申請をしなければならない旨を、さらにその一九条において、郵政大臣は、電波法七条の規定により再免許の申請を審査した結果、その申請が同条一項各号に適合していると認めるときは、申請者に対し、左に掲げる事項を指定して、無線局の免許を与える旨を定めている。そして、免許に附すべき期間の性質は上記説示のとおりである。そうだとすると、右再免許手続に関する規定は、従来の免許人に再免許の申請権という形式で更新の申請権を与え、その更新の申請に対する応答として、期間満了の時点においてなお従来の免許が電波法七条一項各号所定の要件に適合するかどうかを審査し、適合すると認めるときは再免許を与えるという形式で更新を認め、適合していないと認めるときは、再免許をしないという形式で更新を拒否することを建前としていると解するのが相当であつて(行政裁判所昭和九年五月一八日宣告・行政裁判所判決録第四十五輯三〇一頁参照)、本件通告のごとく、再免許申請に対する応答としてではなく、被申立人において一方的に免許を打切るような処分は、全く異質の処分であつて、前記法条の予定していないところであるというべきである。また、本件通告が電波法七五条、七六条二項の規定による取消処分とその性格を異にすることは、同条項に徴し明らかである。したがつて、本件通告は、行政法上のいわゆる撒回の範ちゆうに属する処分であつて、電波法または同法に基づく命令の規定による処分ではないというべきであるから、同法九六条の二および九七条の適用はないものといわなければならない(最高裁、昭和三〇年一二月二日判決、集九巻一三号一九四七頁参照)。
二行政事件訴訟法二五条二項の規定に基づき裁判所が執行停止をするには、当該処分によつて生ずる回復の困難な損害を避けるための緊急の必要があることを要する。ただし、本案について理由がないとみえるときは執行停止をすることができない。
1 そこで、まず、本件通告によつて申立人に回復の困難な損害が生じ、かつこれを避けるための緊急の必要性があるか否かについて検討するに、<疎明資料>によれば、申立人は、昭和三五年四月一日試験局の免許を受けて以来昭和四三年三月三一日に至るまでの間毎年再免許を受け、「FM東海」として超短波放送を行い、古典音楽と通信教育放送を中心として超短波放送の技術の研究開発に努め、これに投じた費用は三億円を超え、漸次放送局としての実体を具備し、右放送による収入も一年間に約二億円に達するようになり、これに従事する者も一〇〇名を超えるようになつたこと、他方、その聴取者も約四〇〇万人以上と推定され、ことに通信教育放送については昭和三八年四月以後独立の望星高等学校として放送による通信教育を実施し、その生徒数も次第に増加し、昭和四二年度においては一、四二三名となつたが、その生徒は主として工員、事務員、職人、身体障害者、家庭の主婦等勉学の機会に恵まれない人々であること、このこともあつて、申立人の通信教育放送は社会一般からも高く評価されていたこと、申立人が今後とも通信教育放送を継続する希望とその社会的責任を感じていること、そして、また、申立人が電波法四条違反を理由として現に告発を受けていることから、聴取者ならびにスポンサーに不安感を与え、収入も漸減する等通信教育放送の経営が窮迫していることが認められ、他にこれに反する資料がないから、これらを総合して考えると、本件通告によつて申立人に回復の困難な有形無形の損害を生じ、かつ、これを避けるための緊急の必要があるものと認めるを相当とする。
2 つぎに本案についてみるに、申立人の主張は必ずしも明らかでないが、要するに、電波法による免許、再免許のように、国民に権利または利益を与える処分の撒回(取消し)は、かような権利または利益を有する者の責に帰すべき事由があるか、あるいはその同意がある場合のほか、自由ではなく、特に公益上の必要がある場合にその限度においてのみ許され、しかも、この場合においてもあらかじめ損失を補償すべきが近代行政の基本原理であり、本件通告はこの基本原理に反し違法かつ無効であるというにあつて、この点については、本案訴訟において慎重審理のうえ判断するを要するというべきであるが、<疎明資料>によれば、昭和四三年一月八日、被申立人が申立人に対し一方的にその試験局につき同年四月一日以降再免許しない旨を通告し、申立人はもちろんのこと、その聴取者ことに望星高等学校の生徒等放送利用者に多大の影響を与えたこと、そこで、申立人は同年二月一〇日被申立人を相手方として当裁判所に被申立人の右通告が免許の取消処分であるとしてその取消し等を求める訴えを提起し、あわせてその執行を停止する旨の裁判を求めるに至つたこと、かくして事態はますます悪化したためこれを放置することができなくなり、政、財界の一部有力者らが仲介の労をとり、申立人と他の有力な電機メーカーとが合弁会社を設立し、これに放送局の免許を与えることを条件に申立人の試験局を廃止する旨の話合いがなされ、その準備期間として同年四月一日から同年六月三〇日までの期間さらに申立人の試験局を再免許することとなつたこと、その結果、申立人は同年三月二一日前記訴え等を取り下げ、同年二月七日付で提出していた試験局の再免許申請書を同年三月二八日右話合いの趣旨にしたがつて訂正、試験局を同年六月三〇日かぎり廃止し、申立人単独で放送局の免許を受けうるものではない旨を了解事項として付記した訂正申請書を提出し、翌二九日同年四月一日から同年六月三〇日までの間を有効期間とする試験局の再免許を与えられたこと、ところが、上記の準備がはかどらず、再び紛糾したので、申立人がさらに準備期間を同年九月三〇日まで延長を希望して同年五月三〇日付で試験局の再免許申請をしたこと、被申立人が前示のように同年六月二九日に再免許しない旨電話通告(本件通告)をしたこと、申立人としては、試験局あるいは放送局として将来にわたつて放送しうるものと考えて、昭和四三年四月以降の望星高等学校の生徒を募集し、あるいは約五〇〇万円を最近に至つて設備投資していることさらには事態の紛糾によりスポンサーが漸減していること等のため窮迫した立場になつていることを認めることができ、他にこれに反する資料はないから、申立人が無条件で六月三〇日限りその試験局の廃止に同意したものとは、推認しがたく、したがつて被申立人において本件通告をするにあたり特に公益上の必要があつたことを主張し疎明すべきにかかわらず、これをしない。してみれば、申立人の本案訴訟は少なくも現段階においては理由がないとみえるときに当らず、むしろその理由があるとみえなくもない。
三よつて、申立人の本件申立てのうち被申立人の本件通告の効力の停止を求める部分は理由があるのでこれを認容し、その余の申立ての部分は執行停止の裁判の範囲外の不適法な申立てであるから、これを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。
(杉本良吉 渡辺昭 岩井俊)
別紙一(執行停止決定申請)
申請の趣旨
相手方が昭和四三年六月二九日申立人に対しなした申立人の超短波放送実用化試験局に関する免許取消処分にもとづく執行は、本案判決が確定するまでこれを停止する。
相手方は申立人の超短波放送実用化試験局の放送を妨害してはならない。
との裁判を求める。
申請の理由
一、相手方は、昭和四三年六月二九日、申立人の超短波放送実験局および実用化試験局に関する免許を取消す旨の行政処分をなしたが、これは違法不当なものであるから、申立人は昭和四三年七月一五日東京地方裁判所に対し、右行政処分の取消等の訴訟を提起した(御庁昭和四三年(行ワ)第一三一号)。
二、申立人は昭和三〇年以来今日にいたるまで超短波放送実験局および実用化試験局に投入した資金は三億円を下らず、これに従事するものは常時一三〇名に達している。申立人としてはその研究が漸く緒についた段階にとどまり、なお前途に遙かな行程と、未開発の分野を残しているものと認識し、最近にも研究設備のため金五百万円余を投入したばかりであつて、今にして相手方の行政処分により終止符をうつことは単に申立人の損害にとどまらず、わが国電子工業の進歩にとつても重大な妨害を与える虞れがある。
三、更に申立人は副(サブ)チャンネルを教育放送、特に電波による通信制学校教育に利用し、働きながら勉学しようとする殊勝な青少年達に機会を与えるため、東京都知事の認可を得て、東海大学附属高等学校通信教育部(通信教育関係の発展に伴い、この部分は附属高校から分離して、現在は「望星高等学校」として独立している)を開設しており、相手方は免許に際し、特に「通信教育を実施すること」という条件を附して賛助の態度を示していたのである。
相手方の免許の取消が実施された場合、右望星高等学校に在籍する生徒(現在約千五百名)は、勤労しながら教育を身につけ人間完成を夢みる殊勝な青少年達に対し、一方的に門を閉ざし、その希望を蹂躙する残酷極まりない措置が相手方の手によつて断行されることになり、憲法の保障する国民の教育をうける権利を不法に侵害され、また相手方は本年七月一日以降の電波の発信は電波法第四条違反として司直に告発すると発表し、申立人関係者およびその放送利用者に多大な不安を与え、申立人らに対し物心両面にわたり著大な損害を蒙らせつつある。
四、申立人としては前記取消処分の執行または続行によつて償うことのできない損害を生ずることは明らかであり、執行停止を求める緊急の必要がある。
よつて申請の趣旨の如き裁判を求めるため本申請におよぶ次第である。
昭和四十三年七月一五日
別紙二、三<省略>
別紙四(意見書)
意見の趣旨
本件各申請を却下する
との裁判を求める。
理由
申請の理由に対する認否
第一項 被申請人が昭和四三年六月二九日、申請人に免許した超短波放送実験局(以下超短波放送実験局「正しくは超短波放送の研究用の実験局というべきものである。」を実験局という。)および実用化試験局(以下実用化試験局を試験局という。)に関する免許を取消す行政処分をしたことは否認し、申請人が試験局の免許取消処分があつたとし、かつ、これが違法不当であるとしてその取消等を求めてその主張の頃その主張の裁判所に出訴したことは認める。
第二項 申請人が実験局および試験局に今日に至るまで資金を投入したこと、これに従事する従業員がいることは認めるが、資金を投入するにいたつた時期(実験局については、昭和三三年三月一日最初の免許申請があり、同年四月二五日予備免許がなされており、試験局については、昭和三二年六月二〇日最初の免許申請があり、同三五年三月一八日予備免許がなされている。)、その資金の額、従業員の数および最近申請人が研究設備のためその主張の金額を投入したことは不知。その余は争う。
第三項 申請人が東海大学の附属高等学校通信教育部をかつて開設していたこと、および現に望星高校を開設していること、被申請人が七月一日以降の申請人の試験局からの電波の発信は電波法第四条に違反しているとして司直に告発すると発表したことは認める。通信教育部設立の目的が申請人主張のとおりであること、望星高校の現在の生徒数が申請人主張のとおりであることは不知。その余は争う。
被申請人は免許に際し、通信教育の実施について条件をつけた事実はなく、また、通信教育の実施につき賛助の態度を示したこともない(疎乙第一号証、疎乙第二号証)。
なお、被申請人は昭和三六年から四〇年までの間の試験局の再免許に際して「通信教育放送を実施すること。」という条件を付した(疎甲第二号証乃至第六号証)が、これは被申請人が法律上関与しうる限度において通信教育放送に関して付した条件であつて、通信教育自体の実施にまで、言及したものではなく、ましてや望星高校の開設について賛助の態度を示したということはない。
第四項 争う。
被申請人の主張
一 本件申請は、本案について理由のない申立である。
(一) 申請人は、試験局の免許の有効期間は単に行政指導の便宜のために設けられたものにすぎず、免許による基本的権義については、これにかかわりなく継続的性質をもつものであるという前提に立つて(本案訴訟請求原因三項参照)、本年六月二九日における被申請人の口頭伝達によつて有効に存続する試験局の免許の取消しがなされそのために損害を蒙つたと主張するが、この主張は試験局の免許の有効期間の制度を、誤解したものである。すなわち、無線局の免許に原則として有効期間を付することとされているのは、電波の利用は国際的取り決めに基づいて行なわれ、わが国が利用しうる電波はきわめて僅少であるから、その利用は常に国家的視野に立ち公平かつ能率的に行なわれなければならないのであり、しかも電波の利用は科学技術の急速な発展が予想される分野に属し、その利用の態様が日一日と変化していくものであるから、このような貴重有限な電波を一旦割り当てることによつて恒久的にその利用を独占させるということは電波の公平かつ能率的な利用を妨げることとなるからであり、電波の公平かつ能率的な利用を確保するためには一定の期間毎に、電波利用の再編成、無線局の再配置を行なうことができるよう措置しておく必要があるからである。このため、現行電波法において無線局の免許が原則として一定の有効期間を定めて与えられることになつているのである(電波法一三条一項)。すなわち、免許の有効期間満了によつて無線局の免許はその効力を失ない、さらにこれを運用しようとする場合には、あらためて免許を受けなければならないとされているのである。また、この場合、免許の有効期間満了に際して免許人があらためて免許を受けることができるという保障は全くないのである。
ことに、試験局は当該無線通信業務を実用に移す目的で試験的に開設するものであつて(電波法施行規則四条一項二三号)、一定期間試験的に実用の状態において、運用しながら、技術上または利用目的上、当該無線通信業務を十分実用に供しうるかどうかの見透しを得るのに必要な資料の収集をする等してその実用化に資するためのものである。したがつて、放送局その他のいわゆる実用局がこれによる無線通信業務の遂行自体を目的として開設されるのとは異なり、試験局は、その試験局としての目的を終了した場合には当然廃止さるべきものである。
申請人の実験局については昭和三三年一二月二六日に、また試験局については昭和三五年四月一日にそれぞれ最初の免許を与えてから引き続いて再免許を行なつてきたものであつて、申請人が試験局についてその免許を受けようとする都度免許申請書に自発的に試験結果の報告書を年四回提出する旨を言明し、これに基づき現在までに提出した三〇回の報告書および実験局について申請人から四回にわたり提出された実験結果の報告ならびに被申請人の諮問に応じて電波技術審議会から提出された答申書を被申請人は、慎重に検討した結果、また、すでに主要外国において超短波放送を実施している状況にもかんがみ、すでにこれらの無線局開設の目的は終了し、その存在意義を失なつていると判断し、近く本放送として実用局を免許する方針を決定し、その実施にそなえ、必要な超短波放送の技術基準等に関する関係省令の改正を完了したのである(疎乙第三号証、第四号証)。そして被申請人が本年四月一日申請人の試験局についての再免許を、特に有効期間を三ケ月の短期間に限つて与えたのは、すでに試験局開設の目的が達成され、今後実用局を免許する方針を決定したためであつて、申請人においても再免許申請書に残務整理のため三ケ月の期間が必要である旨を記載し、かつ、免許期間満了後廃局する旨を誓約したからである(疎甲第九号証添付申請書)。
また、東京地区においては、超短波放送局(本放送)の免許の申請者はすでに六〇をこえている(疎乙第五号証)。これに対して、同地区に割り当てることのできる周波数の数は、二波程度であつて、申請の放送局に比較して極めて僅少である。このような状況のもとで東海大学もこれら多数の免許申請者の一人として超短波放送局の開設を希望しているのである(三二年一月一八日および三六年二月一六日に本放送の局の免許申請書を提出している。)。放送局の免許は、いうまでもなく免許基準に従つて許否を判断されるが、他に競願者があれば互いに比較審査の上免許される立前となつている。現在の申請人の超短波放送を行なう試験局は、実用化試験だけを目的として免許されたものであつて、すでにその使命を達成したものであり、超短波放送は、本放送の免許をなすべき段階に達しているにもかかわらず、申請人の主張のように一旦試験局の免許を受けた以上、その有効期間の満了後もその免許の効力が継続するとすれば、申請人の試験局のために、今後も永久に東京地区において本放送の免許に移行できないこととなるが、かくては放送の公正普及ということが達成されないこととなる。このような事態の発生を電波法が当然予定しているものとは到底考えられない。(なお、申請人に対し試験局の予備免許をした際に、被申請人は特に注意事項として文書をもつてこの試験局の開設がその再免許または実用局の免許を保障するものでないことを申請人に明記している(疎乙第一号証)。このことは、当該実用化試験局の再免許または実用局への切り替えを既得権的に期待されることを避けるため、法令上当然のことを予備免許を与えるに際して念のため、注意しておいたものである。)
要するに被申請人は本年六月二九日試験局について現在効力をもつ免許の有効期間満了後(試験局の免許の有効期間は本年六月三〇日までで満了した。(疎甲第九号証))は再免許を行なわない旨を念のため口頭で伝達したまでのことであつて、申請人主張のようにこれによつて当時効力を有していた試験局の免許を取消したものではないから、これを免許取消の行政処分であるとしてその取消を訴求することは、許されない。
(二) 仮りに、被申請人のした右の口頭の伝達が申請人の主張するように試験局の免許取消の行政処分であるとしても、電波法に基づいてした被申請人の処分に不服がある者は、当該処分についての異議申立に対する決定に対してのみ取消しの訴えを提起することができる(電波法九六条の二)のであるから被申請人に対する異議申立てを経ずして直接処分自体の取消を求めることは許されない。
二 申請人には、その主張する被申請人の行為によつて生ずる回復の困難な損害を避けるための緊急の必要性も存しない。
(一) 申請人が取消しを求めている被申請人の行為(六月二九日における口頭による伝達)は、被申請人の主張一の(一)で述べたとおり、申請人の法律上の地位に対し何等の不利益を与えるものではないから、これによつて申請人が損害を蒙るということはない。
(二) 申請人の試験局が七月一日以後免許の有効期間満了によつて運用できなくなつても、申請人についてその主張のような損害が発生することはない。
無線局の免許は、すでに述べた理由により一定の有効期間を限つて与えられるものであつて、免許の有効期間の満了によつて免許の効力は失われるものであり、新たな免許を受けない限り引き続き無線局の運用を行なうことはできず、またこの場合あらためて免許を受けることができるという法律上の保障は全くない。したがつて、無線局の免許を受ける以上、当該無線局の設備等が免許の有効期間満了によつてその従来の使用目的に供しえなくなるおそれのあることは、当然の前提となつているのであつて、その結果申請人が有している設備が使用できない事態等が生じるとしても、それは、申請人自らの責任において措置すべき事項である。
申請人は試験局の廃止により、人員、設備の面で申請人が損害を蒙り、通信教育放送の実施が困難となると主張するが、試験局で使用していた諸設備はすべて申請人が本年一二月二五日まで免許を有する実験局(疎乙第六号証)の設備と共用のものであるから、試験局の免許の失効によつてこれが廃局になつても実験局の設備そのものとしてこれを使用するものであり(疎乙第七号証)、人員もまたさほどこれを縮少するを要しないものと考えられる
通信教育放送を実験局で実施することについては、被申請人から申請人に対する六月二九日の免許失効に関する伝達においても特別の考慮を払う用意がある旨伝えたのである(疎乙第八号証)。のみならず、受信者との関係においても、実験局は試験局と同一の周波数および電力によつて運用されることとされている(疎乙第六号証、疎甲第九号証)から一般の超短波受信機により実験局からの放送を受信することが可能であるから申請人の主張するような損害は生じない。
また、申請人の試験局の放送区域はNHKのテレビ、ラジオの放送区域に含まれており、望星高校の生徒がNHKの放送を利用して勉学を続けることも可能であり、また一般の通信高校と同様、放送によらない通信教育を継続することができるのである。したがつて、試験局の運用ができなくなつても、これによつて望星高校の閉鎖をもたらすものではなく、申請人のいうような憲法上の教育を受ける権利を侵害するというようなことはあり得ない。
三 なお、申請の趣旨第二項は行政事件訴訟法二五条にいう処分の効力の停止、処分の執行又は手続の続行の停止を求めるものには該当しないからそれ自体不適法な申請として却下を免れない。
別紙五<省略>